これまでにも、クリスマスイベントなど様々な宿泊イベントを開催してきた「箱根吟遊」。今回は、夜のバリ舞踊をメインとした“母娘”限定の宿泊イベントを企画。今や「予約の取れない宿」として名をはせる「箱根吟遊」が、今なおこうしたイベントを開催する理由とは…。スタッフに聞いた。

　「これまで、様々な一流ブランドとタイアップして、イベントを開催してきました。お客様に“こんな「箱根吟遊」もある”と新鮮に感じていただきたいのはもちろんですが、働くスタッフにも一流のブランドなどから新しい刺激を受けて、感性を磨いてほしい。スタッフがつねに新鮮な気持ちでいることも、お客様をお迎えする上でとても大切なことだと思うんです。今回、あえて“母娘”限定のイベントにしたのは、夜のバリ舞踊をちゃんと見にきてほしいから。うちはカップルでいらっしゃるとお部屋から出ていらっしゃらなくなるんですよね（笑）。」

　バリ島にあるホテルの建築やインテリアを意識して作られたという「箱根吟遊」だが、意外にもバリにちなんだイベントはこれが初めてだという。「箱根吟遊」とバリ舞踊がどんなコラボレーションを生むか、一日を追った。

13：30. まずはチェックインする宿泊客を「ガムラン」の演奏が迎えるサプライズイベントが。｢箱根吟遊」に足を踏み入れた宿泊客の表情が、このガムランの演奏で一瞬にして和らいだものになっていく。

一息ついた宿泊客の目に飛び込んでくるのは、吟遊スタッフが「箱根吟遊の一番の売り」と語る箱根連山の絶景。 「“箱根吟遊”はこの景色を最大限に活かすことを考えて設計した」というだけあって、どのフロアにいてもさえぎるもののない見事な山並みが目に飛び込む。今日という日を祝福するかのような五月晴れと、箱根連山の見事な長めに「本当に素晴らしいわね…」とため息がもれた。

　全館畳敷き、足に心地よい感触を感じながら向かったお部屋の中には、次なるサプライズが。娘から母への感謝の気持をしたためたメッセージカードとともに、花束が用意されていたのだ。思いはあれど、日ごろなかなか口にすることができない感謝の気持ち。小さなサプライズに顔をほころばせる母の表情に、娘も言いようのない喜びを感じていた。

　そして、屋外のバーコーナーにはこの日だけの特別なはからいとして、「ヴーヴ・クリコ」のシャンパンが。新緑に包まれながら楽しむ昼下がりのシャンパン。こうして、夜が来るまでは、「箱根吟遊」自慢の絶景露天風呂や、お部屋での美食に舌鼓を打ちながら、誰にも邪魔されない母娘だけのひとときが過ぎていく…。

21：30 さあ、いよいよお待ちかねのバリ舞踊。

舞台となるロビーのエントランスにはキャンドルがともされ、幻想的な雰囲気がかもしだされる。
会場には、作務衣に着替えくつろいだ表情の母娘が集いはじめる。

本日の演奏＆舞踊は、吟遊スタッフがインターネットで探し当てその姿に惚れ込んだという「MESTIKA」（ムスティカ）。

本国インドネシアでも活躍していたインドネシア人もいるプロ集団だ。演奏されるのは全4曲。
器楽曲の「Jagul」（ジャグル）、ウェルカムダンスの「Gabor」(ガボール)、男性の勇壮な舞踊に圧倒される、戦士の踊り「Baris」（バリスー）、女性二人が艶やかに舞う、極楽鳥の踊り「Cendrawasih」(チャンドラワシ)。

初めての試みに、不安と期待の入り混じった気持ちで場内を見つめるスタッフ。しかし、「MESTIKA」の熱のこもった舞踊に、場内の空気もいつしかほぐれ、観客を巻き込んだダンスタイムでは、見よう見まねで踊りだす観客も多数。
用意されたシャンパンのほろ酔いも手伝ってか、思い思いの姿で盛り上がる観客たち。すべての舞踊、演奏が終わった頃には、どこからともなく「アンコール」の歓声が。

舞台が終了したあとも、踊り子と観客、そしてスタッフらがプチバリ舞踊講座に興じるなど、場内は心あたたまるムードでいっぱい。最後には「すばらしかったわね」「どうもありがとう」とスタッフに感謝の言葉をかける観客も。

母を思う娘の心、そして宿泊者に楽しんでほしいと願う箱根吟遊スタッフの心、すべての温かい心が一つとなって、その夜「箱根吟遊」に小さな奇跡が生まれた。「温かい夜でしたね」と声をかけると興奮冷めやらぬ風情のスタッフも、「ここまで盛り上がったイベントは初めてですね。」と顔をほころばせた。